植松伸夫インタビュー 『BRA★BRA FINAL FANTASY VII BRASS de BRAVO with Siena Wind Orchestra』リリース記念

FINAL FANTASYシリーズの楽曲を “吹奏楽”で演奏するオフィシャル企画『BRA★BRA FINAL FANTASY』。この最新作『BRA★BRA FINAL FANTASY VII BRASS de BRAVO with Siena Wind Orchestra』が2018年4月4日(水)のCDリリースに先駆けて、3/28(水)よりmoraでハイレゾ独占先行配信! 4月14日(土)のオーチャードホールを皮切りに、9都市+台湾を巡る全国ツアーもスタートします。

今回は『ファイナルファンタジー』シリーズの音楽の生みの親であり、本企画の制作総指揮も務める植松伸夫氏に今回のアルバム、そしてツアーの話を伺いました。

インタビュアー:斉藤 健二

 


 

取材の様子。(イラスト:牧野 良幸)

 

『VII』に絞って選曲した意図

――今回の『BRA★BRA FINAL FANTASY』は、シリーズの中から『VII』に絞った選曲となっていますが、なにかご意図はあるんでしょうか?

植松 それはよく訊かれるんですが、特にないんです。これまで3回やってきて、4回同じことをやってもな……ということがまずありました。もうひとつは、『VII』って国内だけでなく国外でもすごく人気があるんですよ。どのタイトルも人気がありますが、特に『VI』『VII』『VIII』あたりって『VII』を頂点にすごく人気があるタイトルで。内輪では1つのタイトルに絞ってCDやコンサートを作ることが可能なのではないかという話はもう何年も前からしていたんですが、BRA★BRAも4回目だし、ここらで一発やってみようかと。で、そうなるとやはり『VII』なのかなと。

――なるほど。1つのタイトルに絞ると選曲の幅も広がりそうですが、いかがでしたか。

植松 広がりそうで、狭まりそうで、難しい(笑)。例えばこれまでのFFシリーズの中から選曲して一本コンサートを作りますとなった場合、曲調で曲順を考えればいいじゃないですか。「この曲は派手で明るいから1曲目にしよう」とか、「次はしんみりいこう」とか曲調で選べるんですけど、1つのタイトルで選曲しちゃうと、どうしてもある程度のゲームの進行に沿ったセットリストにしていかないと、例えばオープニングが第一部の最後に来る訳にはいかないじゃないですか(笑)。そういう意味では作りにくい部分はありました。

――なるほど。今度行われるコンサートでは、収録される楽曲を全て演奏されますか?

植松 やります、やります。

――その他の曲も……。

植松 やります。「エアリスのテーマ」とか「FFVII バトルメドレー」とか、今回の収録曲に何曲か付け加えてやります。

――今回『VII』から選曲した中で、アレンジが面白い曲やこの曲が聴きどころ、という曲はありますか?

植松 「牧場の少年」は、チューバとユーフォニウムに加えてピッコロという編成で面白いですよ。中音域を担当する楽器がない編成なんですが、アレンジャーの小林さんからアレンジにするときに、「でっかい象の上に小鳥がいると思ってください」と教えてもらって。そういうイメージで作ったというのがすごく理解できる可愛らしいアレンジになっています。中々ないですよ、チューバとユーフォニウムとピッコロのための曲って。

――確かに。チューバとユーフォニウムのアンサンブルはありますが、そこにピッコロが入るのは面白いです。曲を聴いた時に面白いアイディアだし、吹奏楽ならではのアプローチで良いなと思いました。この曲が最後なのも意外な感じでしたが。

植松 そうそう「片翼の天使」で終わってもね……またかよって(笑)。それはあざとく意図した感じですかね。

――なるほど。

植松 シリアスに「片翼」をやって最後にちょっとおまけというか、かわいらしく短い曲をちょこっとやって。

――他の曲で、原曲からアレンジを加えた曲ってありますか?

植松 うーん。改めてみると、ガラっと変えた曲は意外と少ないかもしれないです。

――元々、吹奏楽アレンジに合うという所も意識して選曲されましたか?

植松 これまであまりアレンジされてこなかった曲というのは意識しました。例えば「ティファのテーマ」とか「ケット・シーのテーマ」とか。「ルーファウス歓迎式典」もオフィシャルではやってないし、「忍びの末裔」も「常に闘う者達(神羅カンパニー~神羅軍総攻撃~ウェポン襲来)」辺りも触ってなかった曲なので。そういう意味でアレンジされた時に新鮮味を感じる曲と、もう一つは「神の誕生」や「完全なるジェノヴァ」みたいなバトル曲は吹奏楽のパリパリのPOPな音が効果的じゃないかと思って選びました。

――曲を聴いた時は「ケット・シー」などははじめから吹奏楽のために書かれたんじゃないか? と思うくらい馴染んでいました。

植松 コミカルなJAZZみたいな感じで。

――はい。とてもよかったです。

 

植松さんにとっての『VII』というタイトル

――今回『VII』に特化していますが、植松さんにとって『VII』はどういったタイトルですか?

植松 最近自分の中で答えが出来つつあって、一番自由になれた、自由に自分の音楽が出来るようになったタイトルなんです。『I』から音楽を作ってきて、次はどんな音楽を作ろうかと考えて続けてきたわけですが、どこかで制限もある感じがありました。それは勝手に自分が作った制限で、「ゲーム音楽ってこうあるべき」みたいな、世の中とか自分が勝手に思っている枠の中で『I』から『V』まで作ってきたんです。『V』くらいからなんか肩が凝るなと、要するになんでこんなにしんどいんだろう? って思っていたんです。

作曲が楽しい半面、しんどかったんですよ。ゲーム音楽もオーケストラみたいな音楽が増えてきていて、オーケストラの音楽をやらなきゃならないというプレッシャーがあったわけです。でも僕はオーケストラの人間ではないし、その悩みとプレッシャーと、さてこの先自分としてどうやって行こうかと考えたときに、自分がこれまで聴いてきたポピュラー音楽とかROCKとかを封印して、勝手に思っている“ゲーム音楽”という枠の中で作ろうとしていた……そこが原因なんだと分かりました。

――なるほど。

植松 皆が“ゲーム音楽”をどう思っているのか知らないけど、それはそれとしてもし自分がこの業界で音楽を作る仕事を続けていくのであれば、自分がこういうものを表現したい! というのが根底にないと嘘っぱちじゃないですか。『VI』辺りからだんだん皆にウケなくてもいいと、自分なりに良いと思う音楽が作っていければいいなと思ってやるようになって、それが『VI』の音楽だったんですけど、『VII』でプレイステーションに移って、スーパーファミコンよりもっと同時発音数とか容量も増えて自由に出来るようになって。その辺りで解き放たれた印象が強いですね、『VII』って。やりたいようにやれて、解き放たれて、花開いた。僕にとってターニングポイントです。卒業試験かな(笑)

――ゲーム的にもこれまでのシリーズと比べて別物ですよね。

植松 うん。RPGってファンタジーでしょという所からいきなりミッドガルの近未来的な建物とかからバーンと始まったり、ゲームとしても当時のスクウェアとしてもそれまで仕切っていた坂口さんが偉い人になって現場に出てこなくなってその隙に若い奴らが好きにやって、凄く頑張ったんじゃないですかね。「自分たちのFFを作ろうぜ!」って。内容も「星の命とは何だろう?」という大人が死ぬまで考えても出ない命題を子供たちに突きつけるという革命的なゲームですよ。だから僕だけじゃなくて色んな人の人生が花開いた作品じゃないんですか。『VII』って。

――ゲーム業界的にも『VII』がターニングポイントだったと言われることがありますよね。まだプレステのゲームの作り方も試行錯誤してた時代に、あれだけのゲームがすぐ出たので。

植松 若者が結集して力を集めてやっているから力強さがありますよね。洗練はされていなくていびつなところもありますが、非常にアツいゲームだと思います。

――音楽を聴いて改めてその熱量を感じました。

植松 うん。だから『VII』の曲とか聴くと凄くどんくさいですよ。「あー」って、『VII』の話はもうやめてくれーってなる。まあでもしょうがないですよね、自分が作ったものに責任を持たないとね(笑)。

 

ハイレゾ音源に関して

――ハイレゾ音源について、いいなと思われることはありますか?

植松 僕、実はオーディオ好きで、今はそんなことないけど昔はスピーカーとかにも凝ってて、未だにアナログレコードとかも買い続けている人間なんですね。音楽を聴く趣味を持った方には、ハイレゾを買うのもいいんじゃないかと思います。今はジョギングしながらとか、何かしながら音楽を聴いてることが多い。昔はレコードの針が飛ばないようにじーっと動かないでジャケットを見ながら聴いていたわけじゃないですか。そうすると音楽に集中する。

でも、ハイレゾを気軽に聴ける環境がそもそもあまりないような気がする。MP3(圧縮)の音に慣れている若者にハイレゾを聴かせたら、もちろんいいですねってなると思うんですが。僕もハイレゾプレイヤーを持ってるんだけど、家のアンプとかスピーカーで鳴らしてもなというのがあって、これをちゃんと鳴らそうと思ったらそれ相応のシステムを構築して部屋の反射とか吸音を考えて、SONYのスタジオみたいな所で聴いて味わいたいなと思っちゃう(笑)。ちゃんとハイレゾを味わうにはそのくらい必要だなあ、と思うのが正直な意見。もちろん「いい音で音楽を」というのはその通りなんだけど、若者に流行らせるのはなかなかね。

――わかります。でも圧縮された音源だけではなくて、ちゃんとハイレゾのような選択肢があるのはありがたいです。

植松  趣味の世界ですよね。趣味はお金がかかる。音楽を聴くのにもお金を払わない人が多いこの時代に音楽を趣味にしようと思う人も少ないわけで、寂しいけどね(笑)。多分あまりにも簡単すぎるんだよね、スマホとかでネットで簡単に音楽が聴けちゃって。

レコードの場合は儀式みたく、そーっと針を飛ばないようにとか傷付かないようにビニール袋にいれてジャケットにいれたり丁寧に扱うんです。丁寧に扱うって行為が音楽を大事に思う事に繋がると思うんです。今はそんなに大事にしなくても聴けちゃうのがね、それが一番の違いではないかな。今の時代はあまり音楽が愛されていない気がする。僕は人生変えられちゃうような音楽に出会ってるから今の自分がいるわけで、そこまでの音楽の感動っていうのは今の人たちは感じて無いんじゃないかと思う。その感動のためならいくらでも払いますよ。

 

おわりに

――最後に『BRA★BRA FINAL FANTASY VII BRASS de BRAVO with Siena Wind Orchestra』を聴いてくれる方、コンサートに来てくれる方へメッセージをお願いします。

植松 今回は『FF VII』縛りで選曲しております。曲を聴いてストーリーを思いだすもよし、原曲との違いを楽しむもよし、皆様それぞれの感じ方で楽しんでいただければと思います。そして、コンサートの方は音源と違うアレンジが施された物もありますので、それはコンサートの方でのお楽しみとなります。会場でお待ちしております。

――植松さん、ありがとうございました。

 


 

<リリース情報>

BRAa??BRA FINAL FANTASY VII BRASS de BRAVO with Siena Wind Orchestrai??SQUARE ENIX

BRA★BRA FINAL FANTASY VII BRASS de BRAVO with Siena Wind Orchestra

試聴・購入 [FLAC]

 

<購入者特典>
ハイレゾをダウンロードしてBRA★BRAコンサートに行こう! 吹奏楽で演奏する公式コンサートツアー「BRA★BRA FINAL FANTASY VII」神奈川公演チケットプレゼント!

■応募期間
2018/3/28(水) 00:00 ~ 4/3(火) 23:59

■対象作品
「BRA★BRA FINAL FANTASY VII BRASS de BRAVO with Siena Wind Orchestra」ハイレゾ音源をまとめて購入

■コンサート詳細
6月23日(土)
会場:神奈川県民ホール・大ホール
開場 13:00 / 開演 14:00

■応募フォーム
https://form.mora.jp/a.p/783/

 


 

植松伸夫 プロフィール

作曲家 / 株式会社ドッグイヤー・レコーズ代表 / 有限会社スマイルプリーズ代表

これまでに全世界で1億本以上を売り上げた、ロールプレイングゲームの金字塔『ファイナルファンタジー』シリーズをはじめ数多くのゲーム音楽を手掛ける。
その功績はゲーム音楽に留まらず、フェイ・ウォンに楽曲提供をした『ファイナルファンタジー VIII』のテーマ曲「Eyes On Me」は1999年度 第14回日本ゴールドディスク大賞においてゲーム音楽としては初の快挙となる「ソング・オブ・ザ・イヤー(洋楽部門)」を受賞。今や女性シンガーとして絶大な人気を誇る アンジェラ・アキにもシングル曲「Kiss Me Goodbye」を提供している。
海外での評判も高まりを見せており、2001年5月アメリカ「Time」誌の”Time 100: The Next Wave – Music”にて音楽における「革新者」の一人として紹介され、2007年7月には「Newsweek」誌にて”世界が尊敬する日本人100人”の一人に選出される。2013年には、イギリスのクラシック専門放送局”Classic FM”がリスナーの投票により行うランキング「Hall of Fame(栄誉の殿堂)」において「ファイナルファンタジー」のサウンドトラックで第3位を獲得した。近年では日本国内をはじめ世界各国でオーケストラコンサートや自身のバンド”EARTHBOUND PAPAS”によるワールドツアーを開催し好評を博す。

植松伸夫 official website】
http://www.dogearrecords.com/

公式コンサートBRA★BRA FINAL FANTASY VIIツアー情報
http://www.square-enix.co.jp/music/sem/page/brabraff/tour/2018/information/

 

BRA★BRA FINAL FANTASYとは…?

2015 年より開催している、FINALFANTASYシリーズの楽曲を“吹奏楽”で演奏するオフィシャルコンサートツアー。作曲家植松伸夫を制作総指揮に迎え、指揮は栗田博文、演奏は日本を代表するプロの吹奏楽団シエナ・ウインド・オーケストラ。
ファイナルファンタジーの楽曲を吹奏楽演奏で聴けるだけではなく、来場者とメンバーが一緒に演奏できる参加型企画が盛り沢山!笑い、手拍子、「ブラボー」など自由に楽しんでいただける新たなスタイルのゲーム音楽コンサートです。